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『アンケート回答者特別SS』のエピソード「『蜘蛛ですが、なにか?』書き下ろしSS/馬場翁」の下書きプレビュー

アンケート回答者特別SS

『蜘蛛ですが、なにか?』書き下ろしSS/馬場翁

作者
カドカワBOOKS公式
このエピソードの文字数
8,381文字
このエピソードの最終更新日時
2016年9月23日 20:20

紅葉狩り



「今日の授業は校外学習ですぅー。紅葉狩りに行きましょうー」

 始まりはそんな岡ちゃんこと、岡崎先生のいきなりの提案。

 今日の授業は通常とは異なり、もうすぐ行われる文化祭に向けての準備時間として充てられるはずだった。

 けれど、俺たちのクラスは部活に入っている奴が多く、そっちでの出し物に時間が割かれるため、クラスでの出し物は簡単なものにしてしまおうと決まっていた。

 その準備は既にできている。

 そのため、俺たちのクラスは今日一日ほぼ自由時間。

 下校時刻まで学校にいさえすれば、どこで何をしてもいい、はずだった。

 それを打ち破ったのが、先生のその爆弾発言だった。

 かくして、俺たちのクラスは何故か紅葉狩りに行くことに。

「なんでまた紅葉狩りなんだか」

 呆れた様子で溜息を吐く叶多。

「まあまあ。たまにはこういうのもいいんじゃない?」

 京也は意外と楽しんでいるようで、足取りも軽い。

「つってもよう。これって高校生にもなって公園行って遊ぶってことだろ? なんか小学生みたいじゃね?」

 今向かっているのは、高校の近くにある公園。

 山、というほど立派なものではないけれど、少し小高い丘になっている自然公園で、季節ごとに見頃となる植物が植わっている。

 春は桜、夏は各種花など、そして秋は紅葉といった具合だ。

 先生の目的はそれだ。

 が、体力の有り余っている高校生が静かに紅葉を見るだけで終わるはずもなし。

 サッカーボールを持ち出している時点でお察しである。

 つまり、紅葉狩りとは名ばかりの、公園で遊ぼうぜツアーなのは間違いない。

 叶多の言うように、高校生の授業じゃないな。

「まあ、することなくて教室でボーッとしてるよりかはマシだろ」

 うちの高校は各教室の出し物よりも、部活の出し物の方が多かったりする。

 なので、うちのクラス同様、クラスとしての出し物は簡単なものにして、部活の方に力を入れるというところも少なくない。

 そうすると、今日みたいにクラスの出し物の準備をする日はやることがなくなってしまう。

 大抵は部活の方の出し物の準備をするために解散となるそうだが、こういう遊びがあってもいいんじゃないかと俺は思う。

 まあ、ただ遊びたいだけというのも本音なんだけどな。

 そんな会話をするうちに、公園へとたどり着いた。

 もみじの植えてある一角までゾロゾロとみんなで歩く。

 この公園はそこそこ広い。

 そこそこ、というところがミソで、近所の子供たちが遊ぶには広いが、わざわざ遠出してきてまで来るには狭いという、中途半端な広さとなっている。

 なので、車で来る家族連れなんかはあまりいない。

 いたとしても車で三十分以内に着く範囲の人ばっかりだろう。

 そして、今日は平日。

 良く晴れているけれど、人はまばらにしかいない。

 散歩やジョギングをしに来たご年配の方がチラホラいる程度だ。

 つまり何が言いたいのかというと、ほぼ俺たちの貸切だということだ。

「お? ちゃんと赤くなってんじゃん」

 叶多が指を差しながら言う。

 到着したもみじの植わった一角。とはいえ、数える程しか植わっていないんだけどな。

 そこには、赤く色付いたもみじの葉がなっていた。

「まだ青いんじゃないかと思ったけど、ちゃんと赤くなってるね」

 京也の言うとおり、時期的に少し微妙なところだと俺も思っていた。

 紅葉の見頃には少し早いんじゃないかと。

「ふふふぅー。先生ちゃーんと下見しましたからぁー」

 俺たちの話を聞いていた先生が、自慢げに胸を張る。

 童顔小柄な先生がそんなポーズをしていると、子供がドヤ顔してるようにしか見えない。

「おー、よしよし。偉いですねー」

 案の定というかなんというか、七瀬さんが先生の頭を撫でて子供扱いしている。

 女子の中では身長の高い、大人びた容姿をしている七瀬さんがそうすると、本当に大人と子供みたいだ。

 そこで先生もまんざらでもなさそうな顔をするから、余計にほのぼのとした光景になってしまう。

 実年齢では先生の方が上のはずなんだけどなあ。

「ではではぁー。ここからは自由時間にしてくださぁーい。けどぉー、公園から出たりぃー、人の迷惑になることはしないでくださいねぇー」

 との先生の言葉で解散していく。

 誰一人として本来の目的の紅葉狩りを継続しようとはしない。

 まあ、そりゃそうだよな。

「よう。男子は全員でサッカーするぞ!」

 と、夏目がやや強引にサッカーに誘ってきた。

 断られるとは思っていないのか、すぐに背を向けて、サッカーのできる広場へと桜崎くんと談笑しながら行ってしまう。

 ここで断ると後で面倒なことになりそうだ。

 俺は叶多、京也と顔を見合わせて肩をすくめた。

 夏目のこういう強引なところは今に始まったことじゃない。

 それに、俺自身サッカーをするのは別にかまわないので、強く反発する気も起きない。

夏目のあとを追って広場に出ると、そこには既に男子が集まっていた。

「あれ? 隣のクラスの連中?」

 叶多が怪訝そうな声で、集まった男子を眺める。

 そこには、うちのクラスの男子だけでなく、隣のクラスの男子も集まっていた。

「なんか、隣のクラスもうちと同じ感じらしいぜ。で、今夏目がクラス対抗でサッカー勝負しようぜって持ちかけてる」

 近くに来たオギの説明で、状況がわかった。

 どこのクラスも考えることは同じだったらしい。

「あっちのクラスにサッカー部っているのか?」

 叶多がオギに聞く。

 オギはサッカー部だしな。

「三人いる。しかも一人はうちの高校のエース」

「うわ」

「オギ、お前だけが頼りだ」

 顔をしかめる叶多。

俺はオギの肩に手を置き、力強く握りこむ。

「俺、ポジションキーパーなんだけどな?」

「頼んだぞ守護神。一点も入れさせるな」

「無茶言うんじゃねえ!」

 俺の無茶振りに大げさに嘆くオギ。

「そういえば、うちのクラスのもう一人のサッカー部員は?」

 京也が辺りを見回して、その姿を発見した。

 隣のクラスの奴と話し込む夏目を中心とした一団。

 そこに、オギと同じくサッカー部の津島の姿があった。

「あー。津島は補欠だからなー」

 オギの歯切れの悪い言葉に、俺もああと納得する。

 津島は高校からサッカーを始めた口で、そこまでうまいとは言えない。

 正直、夏目とかの元から運動神経がいい連中の方がうまいかもしれないくらいだ。

 つまり、実質うちのクラスにはまともにサッカーができる男子がいない。

 対して、相手のクラスには三人もサッカー部がいる上に、一人はうちの高校のエース。

「負けだな」

「だね」

「どうしてそこで諦めるんだ!」

 俺と京也が早々に諦める中、叶多が叫ぶ。

 なんだかんだ言ってこいつは負けず嫌いだからなあ。

「おっしゃ! お前ら、隣のクラスの奴らと対戦することになったからな。ぜってえ勝つぞ!」

 俺たちが負け戦になるだろうと覚悟していたら、そんなことを言いながら夏目がこっちに来た。

 どうやら夏目は勝つ気マンマンでいるらしい。

 うちのクラスの男子が全員集まり、作戦会議が始まる。

 とは言え、素人集団の高校生男子がサッカーをしても、適当にボールに集まるしかできない。

 なので、大まかなポジションだけ決めれば作戦会議は終了となる。

 しかも、うちの男子の数は十三人と多いので、そのポジションにしてもかなり大雑把に決めただけだ。

「っしゃあ! 行くぞ!」

 夏目の掛け声とともにポジションについていく。

 こういう時の夏目は、なんだかんだでリーダーシップがある。

 公園の芝生の広場には、一応サッカーゴールがある。

 ゴールの前にはオギがゴールキーパーとして立つ。

 その周囲には、京也、小暮、相川くん、林くんの四人がディフェンダーとしてついている。

 京也以外の三人は、運動神経に自信のない組だ。

 もっと言えば、本音ではサッカーをやりたがっていない組というか。

 夏目が強引に男子全員と言って連れ出してきたわけだけど、中にはやりたくない人だっている。

 それがディフェンダーとして固まっているわけだ。

 ディフェンダーだったら、相手が攻めてきた時に少し壁になるだけで、あとは適当にできるからな。

 京也はなにげに運動神経はいいはずなんだけど、こういうスポーツをする時はでしゃばらないポジションにつきたがる。

 もったいないと思うんだが、京也自身の希望なので俺は何とも言えない。

 なんて、そんなことを考えていたら、いつの間にか試合が始まっていた。

 隣のクラスの名も知らない男子が、俺の横を颯爽と駆け抜けていく。

 しまった。

 審判なんていないし、開始のホイッスルが鳴るわけもないのだから、ちゃんと始まりの瞬間を見ていなければならなかったのに。

 後ろを振り返っていた俺の落ち度だ。

 すぐに反転して、追いかける。

 相手はボールを持ってドリブルしてるんだから、全力で走れば追いつける。

 と、思っていたのに、追いつけない。

 相川くんが守備として立ちはだかるも、ほぼ棒立ちと変わらないので、簡単に躱されてしまった。

 そして、そのままシュート。

 オギが必死に飛びつき、なんとかセーブ。

 危なかった。

 危うく開始早々に一点取られるところだった。

「どんまい」

「ああ。もしかしてあれがうちの高校のエース?」

 近づいてきた津島に聞いてみた。

「オギに聞いたのか? そう、あいつがうちのエース」

 だと思ったよ。

 動きが素人じゃない。

 こりゃ、本気で負けるな。


 俺の予想に反して、隣のクラスとのサッカー対決は三対三という引き分けで終わった。

 オギが必死でゴールを守ったのが大きい。

 オギが奇跡的なファインセーブを連発していなければ、もっと点差が開いていただろう。

 あと、試合が思ったよりも短い時間で終わったのも理由の一つだ。

 遊びだから、試合時間なんて決められていたわけじゃないけど、少なくとも俺は時間いっぱいまでサッカーをしているものだと思っていた。

 が、怪我人が出たので、そこで自然と試合終了の流れとなった。

 怪我をしたのは、これまたオギ。

 顔面で相手のシュートを受けてしまい、鼻血を出してしまった。

 幸い、大したことはなさそうだったけど、今は先生のところに行っている。

 間違いなくこの試合のMVPはオギだろう。

 マジでお前が頼りだった。

 お前の勇姿は忘れない。

 とまあ、終始うちのクラスで目立っていたのはオギだったわけだが、三点とったということはそれだけ攻めでも活躍したのがいたということだ。

 うちのクラスの攻めで目立っていたのは、夏目と桜崎くんのツートップ。

 どちらも運動部には所属していないくせに、やたら運動神経がいい。

 その持ち前の運動神経を発揮して、カウンターで攻め込んで一点をもぎ取った。

 二点目を決めたのは槇将羽登。

 将羽登と書いてシュウトと読む。

 つまり、シュート。

 それなのに、野球部所属。

 見た目も丸坊主のこれぞ野球部って外見。

「シュートだ将羽登!」

「将羽登、シュートだ!」

「うるせえ!」

 と、こんなやり取りをしながら放った槇のシュートが見事に相手ゴールのネットを揺らした。

 やけくそ気味だったことは言うまでもない。

 そして三点目は、嬉しいことに俺も少し絡むことができた。

 俺は運動神経がいいわけではないので、こういうところで活躍できることは希なのだ。

 俺がサイドから上げたボールを、夏目がヘディングで決めたのだ。

 夏目のゴールをアシストした形になるだろう。

「山田! ナイス!」

 ゴールを決めたあとに親指を立てて俺に笑いかけた夏目。

 俺様気質で好きにはなれないが、こういうところが人を惹きつけるんだろう。

 不覚にも嬉しくなった。


「あー、疲れた」

「お疲れ」

 叶多が木製の椅子にぐったりと座り込む。

 ボールを常に追い掛け回して走り回っていた叶多は、その分疲れも溜まっているようだ。

 それに対して、京也は涼しい顔をしている。

 ディフェンスに徹して、こっちが攻めている時は自陣で大人しくしてたからな。

 けど、全体で見れば攻め込まれている場面が多かったし、京也もそれなりに動いていたはずだ。

 それなのに汗一つかいていない。

 時々思うんだが、京也って実はすごいんじゃないだろうか?

 極力目立たないようにしてるというのはなんとなくわかるんだが、こいつが本気を出したらどうなるんだろう?

 少し気になる。

「俊、お前何抜け駆けしていいとこ見せてるんだよ?」

「たまたまだ」

 恨みがましい視線を向けてくる叶多。

 そんなことを言われても、本当にあのアシストはたまたまできたとしか言いようがない。

「なーんか俊って、いつもおいしいとこだけ持ってくよなー」

「ああ。それはあるかもね」

 京也にまで言われてしまった。

「俺、そんなことしてるっけ?」

「ゲームでおいしいとこ持ってくのはしょっちゅうだけど、なんか要領がいいっていうか、タイミングがいいっていうか。今日だって隣のクラスの女子が結構騒いでたぞ」

「そうなのか?」

「ああ。うちの女子と隣の女子のほとんどが見学してたし」

 女子が見学をして歓声を上げていたのはわかっていたけど、俺にもそれが飛んできていたってことだろうか?

 そうだったら嬉しいけど、多分それは俺よりも、その直後にシュートを決めた夏目に対してのものだろう。

「俺じゃなくて夏目に対してだろ?」

「ああ、まあ、大半がそうだろうけどな」

 思ったことをそのまま言えば、叶多も否定しなかった。

 悲しいかな、俺は平凡な見た目なのに対して、夏目は結構かっこいいからな。

 よくよく付き合ってみれば、その俺様な性格のせいで恋仲になろうとは思われないようだが、遠巻きにすればいい男に違いはない。

 鑑賞用だと思えばまあありかな、とは、隣の席の長谷部の言。

 美形の俺様とか乙女ゲーのキャラだったらありだけど、現実だとね、とも言っていた。

 確かに、夏目は漆原さんを中心に、女子グループとも仲が良さそうに見えるけど、誰かと恋仲になる雰囲気は全くない。

 女子から見た夏目は、友達だったらありだけどそれ以上はない、というタイプなのだろう。

 そう思うとちょっと夏目が哀れに思えるから不思議だ。

 彼女いない歴イコールで年齢の俺が言えた義理じゃないだろうけどな。

「俺も若葉さんにちょっとくらいいいとこ見せたかったー」

「お前、まだ若葉さんのこと諦めてないのか?」

 叶多は無謀にも学年一、いや、校内一の美少女である若葉さんに告白し、見事玉砕した経験がある。

 本人もダメ元で挑んだこともあって、表面上傷ついた様子を見せていなかったが、諦めていなかったからこそ平気な顔をしていたってことか?

「いーや。すっぱり諦めてるよ。けど、かっこつけたいと思うのは男の性ってね」

「叶多」

 何やら京也が咎めるように叶多の名前を呼ぶ。

「ま、どっちにしろ若葉さんはサッカー見てなかったんだけどな!」

 京也の声を聞き流すかのように、叶多が軽快に笑う。

 それに京也は一瞬不快気に眉根を寄せたが、すぐに諦めたかのように首を振った。

「俺、ちょっと自販機で飲み物買ってくるわ。何か欲しいものあるか?」

「じゃあ、炭酸系の何かあったらよろしく」

「僕はお茶で」

「わかった」

 なんとなく居心地が悪くなって、その場を逃げ出すようにして出てきてしまった。

 ように、じゃないな。

 逃げたんだ。

 叶多と京也、それに若葉さんの間で何があったのかは知らないが、どうやら俺が思っているよりも拗れているらしい。

 友人としては叶多の恋を応援したいが、どうにも本人に本気が窺えないというか。

 もしかして、京也はそこらへんのことで怒っているんだろうか?

 なんにせよ、本人が俺に気持ちを打ち明けてこないうちは、下手に詮索しないほうがいいか。

 そんなことを考えながら自販機のある場所を目指していると、まさに噂をすればなんとやら。

 少し先に若葉さんが座って本を読んでいる姿があった。

 ちょうどそこはもみじのある場所で、紅葉に彩られた木の下で本を読む若葉さんの姿は、絵になっていた。

 まるで世界が違うかのようだ。

 そう思ったのは俺だけではなかったらしい。

 若葉さんに近づく三つの影。

 漆原さんに、飯島さんと外岡さんだ。

 漆原さんは好きな先輩が若葉さんのことを好きだったという理由で告白を断られた。

 それを逆恨みして、若葉さんに小さな嫌がらせを繰り返している。

 今回はどうやら何か嫌味を言っているようだ。

 何を言ってるのかまでは聞き取れないが、漆原さんの口が激しく動いている。

 間に入るべきかと悩んだ瞬間、若葉さんが本から視線を上げた。

 まっすぐに見つめられた漆原さんがたじろぐ。

 けど、それも一瞬のことで、何かを再び言おうとして、背後の二人から宥められていた。

 漆原さんを宥める飯島さんと外岡さんの顔には、はっきりとやばいと書いてある。

 若葉さんは美人だ。

 そして、その美人が無表情でじっと見つめてくると、正直怖い。

 若葉さんの浮世離れした雰囲気も相まって、見つめられた側に恐怖を与える。

 若葉さんが美少女なのに遠巻きにされる理由でもある。

 漆原さんは友人二人に止められ、悔しそうにそれ以上何かを言うのをやめた。

 不機嫌そうに立ち去っていく。

 飯島さんと外岡さんはそのあとを慌てて追いかけていった。

 残ったのは、何事もなかったかのように再び本を読み始めた若葉さんのみ。

 俺は若葉さんに気づかれないように、そっとその前を通り過ぎた。

 若葉さんの姿が見えなくなってから、俺はホッと息を吐いた。

 実は、俺は若葉さんが苦手だ。

 なんというか、同じ人間には思えない。

 住む世界が違う。

 友人の想い人に言うことじゃないと思うが、なんか怖い。

 確かに見た目はものすごい美少女なんだけど、いつでも無表情だし。

 けど、いじめの現場を見て何もしないっていうのは人としてどうなんだって思うよな。

 いくらいじめられてるのが苦手な人だからって。

 京也だったらやんわり間に入るくらいはしてただろうに。

 あいつはあれで結構正義感が強いからな。

 若干自己嫌悪に陥りながらも、目的の自販機に到着する。

 そこには先客がいて、今まさに自販機から缶を取り出しているところだった。

 げっ、と声に出さなかっただけ自分を褒めたい。

 若葉さん以上に苦手な人物がそこにいたからだ。

 リホ子。

 リアルホラー子、略してリホ子。

 誰がつけたんだか、彼女はそう呼ばれている。

 クラスの中で一番浮いている存在だ。

 リホ子は俺の存在に気づくと、不機嫌そうに一瞥して去っていこうとする。

 俺はそれを黙って見送る、つもりだった。

「焼き芋味?」

 リホ子が持つ缶にでかでかと書かれている、さつま芋。

 そして、焼き芋味。

 ありえねえ、というのが俺の感想だった。

 焼き芋は確かに美味しいが、それをジュースにしたらダメだろ。

 絶対まずい。

 たまーに、自販機にはこういうキワモノがあったりするが、なんでそんなものをわざわざ買ってるんだ?

 秋だからか?

 そんな思いがポロッと口から出てしまっていた。

「珍しいでしょ?」

 俺の呟き聞いたリホ子が、珍しく返答してきた。

 いつもは自分から他人と関わろうとしないのに、珍しいこともあるもんだ。

「初めて見た」

 ここで無視するのもなんだと思い、無難に返しておく。

「まずそうでしょ?」

 だったらなんで買ったんだと問いたい。

 それをグッと堪えて、曖昧に笑っておく。

「こういう新しいものを見ると、ついつい飲んでみたくなるの」

 プシュッ、という缶を開ける音が鳴り、リホ子が口をつける。

 喉が動き、中の液体が飲み込まれた。

「まっず!」

 だから、いくら新しいものだったからって、どうしてそんなまずいとわかりきっているものを買うんだと。

「ああ、でも残すのはもったいない」

 リホ子は唖然とする俺を放ってそのまま去っていった。

 なんだったんだか。

 気を取り直して自販機に金を突っ込む。

 そして目に飛び込んでくる、無難なものと、それ以外のもの。

 焼き芋味、栗味、柿味、さんま味……。

 最後おかしいだろ?

 リホ子、あれでも一番のキワモノは避けてたんだな。

 秋だからってそれをどうして作ろうと思ったんだ、制作会社は。

 俺はキワモノ系を無視して、コーラとお茶を買う。

 そして、最後に柿味を買った。

 なんだかんだ言って、俺も冒険好きなのかもしれない。


 帰りは若葉さんのことを避けて別ルートから戻った。

 戻ったらなぜか長谷部や古田、手鞠川なんかの女子陣が合流していて、それに釣られた男子が数人追加されていた。

 俺が自販機にあったキワモノの話をしたら、ジャンケンで負けた奴がそれを買いに行って飲むという罰ゲーム大会が開かれることになり、叶多がその犠牲者に。

 ダッシュでさんま味の危険物を買ってきた叶多。

 意を決してグイッと男らしくそれを飲んだ叶多。

 お前はいい奴だったよ。

「いや、殺すなよ」

「で、感想は?」

「二度と飲まねえ」

 なぜか叶多の飲み残しを男子で回し飲みすることになり、結局みんな飲むことに。

 めちゃくちゃまずかったとだけ言っておこう。

 俺の買った柿味は、微妙だった。

 飲めないこともないけど、美味いとは絶対に言えない。

 そんな中途半端なリアクションに困る感じだった。

 そんなこんなで変に騒いでいる間に時間となり、俺たちは集合場所に向かった。

 結局半日遊んだだけだが、こんな日もたまにはいいかもしれないな。

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